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気象病・天気痛とは? 症状、気圧との関係、記録のしかた
要点
気象病は、天気の変化にともなって頭痛、めまい、だるさなどの不調が出る状態を指して、日本で広く使われている言葉です。天気痛は佐藤純医師が名付けた言葉で、同医師は「病名ではなく、天気や季節の変化で不調をきたす病態の総称」と説明しています。研究では、気圧の低下と頭痛の多さが結びついていたという報告がある一方、関連が見られなかった報告もあり、天気の影響を受けやすいのは一部の人と考えられています。自分が当てはまるかを知るには、症状を日時とともに少なくとも8週間記録し、気圧の推移と見比べるのが近道です。
気象病・天気痛とは
「雨が降る前に頭が痛くなる」「台風が近づくとめまいがする」「梅雨どきは体がだるい」。天気と体調の関係は昔から語られてきました。気象病は、こうした天気の変化にともなう不調をまとめて指す言葉として、日本で広く使われています。
天気痛は、愛知医科大学客員教授の佐藤純医師が名付けた言葉です。佐藤医師は天気痛を「病名ではなく、天気や季節の変化で不調をきたす病態の総称」と説明しています。同医師は2005年に愛知医科大学病院で日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設し、天気痛の潜在的な患者は全国で少なくとも1,000万人以上いると考えられる、と述べています。
海外にも似た考え方があります。ドイツでは「Wetterfühligkeit(天気への敏感さ)」という言葉が一般的です。ドイツ気象局(DWD)は、天気が変わると体は自律神経などを通じてそれに合わせようとし、その調整が気づかないうちに済むか、不調として感じられるかは、その人の適応力と天気の変化の強さによって変わると説明しています。そのうえで「天気の変化そのものが人を病気にするわけではない」とし、病気などで体の調節力が落ちているときには問題になりうると述べています。
つまり、気象病・天気痛は「天気のせい」と一言で片づけられるものでも、「気のせい」と切り捨てられるものでもありません。天気の影響を受けやすい人と、そうでない人がいる。この前提で考えると、自分の体調との付き合い方が見えてきます。
よくある症状
症状の出方は人によってさまざまです。佐藤医師は天気痛の症状として、次のようなものを挙げています。
- 頭の症状:片頭痛など。佐藤医師によると、天気痛の症状として最も多いのが頭痛です。
- 耳とバランスの症状:めまい、耳鳴り。
- 体の痛み:肩こり、古傷の痛み、腰痛、膝の痛み。
- 全身の不調:だるさ、気分の落ち込み、喘息などの悪化。
佐藤医師は、天気痛は女性に多く、男性の3〜4倍にのぼる傾向があるとも述べています。
ドイツで2013年に1,623人を対象に行われた代表調査(DWDの資料による)では、回答者の50%が、天気が自分の健康に大きく、または多少影響していると考えていました。天気の影響を感じている人に多かった症状は、頭痛・片頭痛(59%)、疲れ(55%)、ぐったり感(49%)、関節の痛み(42%)、睡眠の乱れ(40%)です。29%は、過去1年に少なくとも一度、ふだんの仕事や家事ができなくなったと答えています。国は違っても、頭痛がいちばん多いという点は共通しています。
ただし、どの症状も気圧とは関係のない理由で出ることがあります。片頭痛、緊張型頭痛、内耳の病気、更年期の症状、睡眠不足など、ほかの理由が隠れていないかを確かめることが、気象病・天気痛を考えるうえでの出発点になります。
気圧の変化と症状の関係:研究でわかっていること
気圧と頭痛の関係は、日本でも海外でも研究されています。日本の研究からは、次のような結果が報告されています。
- 宇都宮の研究(2011年):宇都宮地方気象台から10 km以内に住む片頭痛のある28人が、1年間頭痛ダイアリーをつけました。頭痛の日から翌日にかけて気圧が5 hPaを超えて下がるときに片頭痛の頻度が高く、頭痛の日から2日後にかけて5 hPaを超えて上がるときには低くなっていました。28人中18人(64%)で天気の変化と片頭痛に関連があり、そのうち14人が低気圧を挙げていました。一方、月ごとの平均気圧と頭痛の頻度には関連がありませんでした。
- 発作が始まったときの気圧(2015年):片頭痛のある34人が、発作が始まったときの気圧を頭痛ダイアリーに記録しました。低気圧が近づくなかで気圧が1003〜1007 hPaのとき、つまり標準気圧の1013 hPaより6〜10 hPa低いときに発作が最も多く見られました。
- 頭痛アプリの大規模データ(2023年):電子頭痛ダイアリーアプリの利用者4,375人による33万6,951件の1時間ごとの頭痛記録を分析した研究では、気圧が低いこと、湿度が高いこと、雨が多いこと、6時間前からの気圧の大きな低下、翌日の気圧が低いことなどが、その時間帯の頭痛の多さと結びついていました。
一方で、結果はいつも一致するわけではありません。14件の研究(参加者2,696人)をまとめた2025年のシステマティックレビューでは、気圧の低下や急な変動が片頭痛の頻度の増加と結びついていた研究がいくつかあった一方、発作の強さとの関連を示した研究は少なく、発作の持続時間との関連を示した研究はありませんでした。著者らは、気圧の測り方や記録方法が研究ごとに大きく違うことなどから、エビデンスの質は限られていると結論づけています。
人によって違う理由のひとつとして、ベルリンで片頭痛のある100人を1年間調べた研究(2015年)があります。一部の人には天気への明らかな敏感さが見られた一方、全員のデータをまとめた分析では有意な関連は見られませんでした。影響を受ける人が一部なら、全員を平均すると関連が薄まってしまいます。研究結果がばらつくのは、このためかもしれません。
なぜ気圧の変化を体が感じ取るのかについては、内耳が注目されています。中部大学の佐藤純教授(愛知医科大学客員教授)らのグループは2019年、マウスの周囲の気圧を1013 hPaから40 hPa下げると、平衡感覚の情報を処理する脳幹の上前庭神経核で神経細胞が活性化したと報告しました。2025年には、自然の天気の変動の範囲内である20 hPaの低下で、内耳から情報を伝える下前庭神経節の神経細胞が反応したという報告もあります。いずれも動物での研究であり、人で同じしくみが働いているかはまだわかっていません。
めまい・耳の症状と気圧
めまいや耳の詰まった感じも、天気との関係がよく話題になる症状です。内耳の病気であるメニエール病については、英国で医師の診断を受けた397人がスマートフォンアプリで毎日の症状を記録し、英国気象庁のデータと照らし合わせた研究(2017年)があります。気圧が1013 hPaを下回る日には発作のリスクが1.30倍、湿度が90%を超える日には1.26倍でした。
日本では、メニエール病の人の内耳をMRIで調べた研究(2025年)があります。聴力の低下が中等度まで進んだ人では、撮影の前日から当日にかけて気圧が下がっているほど、病気のある側の前庭の内リンパ腔が広がっている傾向が見られました。比較のための慢性副鼻腔炎の人たちでは、こうした関係は見られませんでした。
ただし、めまいには良性発作性頭位めまい症や前庭神経炎など、さまざまな理由があります。めまいがくり返す、聞こえにくさや耳鳴りをともなうといった場合は、天気のせいと決めつけず、耳鼻咽喉科で相談してください。めまいについての英語の解説はこちらのガイドにまとめています。
自分のパターンを確かめる記録のしかた
天気と体調の関係は、思い込みにも左右されます。雨の日の頭痛は「やっぱり天気のせいだ」と記憶に残りやすく、晴れた日の頭痛は忘れがちです。佐藤医師も、患者に「痛み日記」をつけてもらい、天気や痛み、運動や睡眠を記録して、症状がどれだけ天気に左右されているかを客観的に評価していると述べています。ドイツ気象局も、自分の天気への反応を知るために天気日記をつけることを勧めています。
- 症状が出たらその都度記録する:始まった日時、痛みの性質(脈打つようか、締めつけられるようか)、続いた時間、吐き気や光・音・においが気になったか、薬を飲んだかどうか。日本頭痛学会が頭痛ダイアリーで記録を勧めている項目です。
- 軽い日も書く:つらい日だけを記録すると、印象に残りやすい天気の悪い日に記録が偏ります。
- 少なくとも8週間続ける:英国のNICEのガイドラインは、頭痛ダイアリーを最低8週間つけることを勧めています。その間に天気もいろいろに変わるので、比べる材料がそろいます。
- ほかの要因もメモする:日本頭痛学会の頭痛ダイアリーでは、メモ欄にイベント、外出、天気、寝すぎなど気づいたことを書き、月経の期間にも線を引くよう勧めています。睡眠不足や食事を抜いたこと、ストレスは、天気の変化と同じ日に重なることがあります。
- ふだんの割合と比べる:大きな気圧変化がもともと3日に1日ある地域なら、頭痛の3回に1回がその近くにあっても偶然の範囲です。知りたいのは、それより多いかどうかです。
記録と気圧を見比べるときは、何を「大きな変化」とするかを先に決めておくと、判断がぶれません。Barometric Pressure Trackerでは、6時間で6 hPa以上の変化を大きな変化とし、そのあと24時間以内に記録された症状を数えています。何を書けば医師に伝わりやすいかは、頭痛ダイアリーのガイド(英語)でも詳しく紹介しています。
受診の目安
天気のせいだと思っていた頭痛やめまいに、別の病気が隠れていることもあります。英国のNICEのガイドラインは、次のような特徴のある頭痛では、詳しい検査や専門医への紹介を検討するよう医師に求めています。
- 突然始まり、5分以内に痛みが最大になる頭痛
- 発熱をともない、悪化していく頭痛
- 新たに現れた手足の麻痺やしびれなどの神経の症状、物事を考えにくい、人格が変わった、意識がはっきりしない
- 最近(おおむね3か月以内)の頭のけがのあとの頭痛
- せき、くしゃみ、いきみ、運動のときに出る頭痛
- 体の姿勢によって強さが変わる頭痛
- いつもの頭痛と性質が大きく変わったとき
突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、片側の手足が動かないといった症状があれば、ためらわずに救急車を呼んでください。
もうひとつ注意したいのが薬の使いすぎです。鎮痛薬を飲む日が多い状態が続くと、それ自体で頭痛が増えることがあります。NICEは、トリプタン、オピオイド、エルゴタミン、複数成分の鎮痛薬を月10日以上、またはアセトアミノフェン(パラセタモール)、アスピリン、NSAIDsを月15日以上、3か月以上使っている人で頭痛が出始めたり悪化したりした場合に、薬の使いすぎによる頭痛を考えるよう勧めています。天気の悪い日に薬が増えていると感じたら、自己判断で量を増やさず医師に相談してください。